21年目の栄光 最終話

越本隆志の軌跡

21年目の栄光 最終話

 

21年目の栄冠 最終話

 諦めきれない息子。ボクシングに人生をかけた以上、世界タイトルはすべてを捨てても叶えたい夢だった。父は1度経験しているだけに、どれだけ苦労するかわかっていた。しかし考え抜いた末、最後は「お前がそこまでしたいのなら」と腹をくくる。かつて父の意思に従いボクシングをしていた息子。今度は父が息子の意思に応えたのだ。2度めの世界戦への道のりは、経済面だけでなく、隆志にとっては肉体面でも厳しいものだった。長年の酷使により、両肩それぞれ4本ずつある筋肉のうち、左2本、右1本が切れていた。そのため横からのパンチ(フック、アッパー)は打てない。医者には引退を勧められた。父と、ごく親しい友人以外、彼が世界の頂点に立てるとは、誰も思っていなかった。「俺だって人間ですから、『もうダメかな』と思った時期もありましたよ。でもたとえ10あるうち1しか可能性がないなら、その1に100パーセントの力を注ごうと。可能性がゼロではないのに諦めてしまったら、絶対後悔するから」(隆志)。隆志はストレート、ジャブという限られた選択肢のなかで技を磨き、いつ訪れるかわからないチャンスを待ちつづけた。1年、2年、3年…。1度でも負ければチャンスは消える。それは引退を意味していた。一戦一戦が、生き残りをかけたサバイバルレースだった。

 しかし、捨てる神あれば拾う神あり。去年秋、地元青年会議所が世界戦の実現に向け資金集めに動きはじめたのだ。中心になったのは元練習生の会員。「田舎で暮らす俺たちでも、本気になれば世界に何かを発信できる」と、一人、また一人と賛同者が増えていった。みな隆志の諦めない姿に心を動かされた、同世代の青年たちだった。「もし勝っても、隆志は二度と戦えない体になるかもしれない。できることならば自分の肩を隆志にあげたい。だから当日は少しでもよい状態でリングに立てるよう力を尽くしたい」。試合前、父はそう話した。一方の隆志も「親父に世界のベルトを見せてあげたい。これから先、恩を返していかなければならないことはたくさんある。けど今の時点で俺にできる恩返しは、それだけですから」と。

 6年前とは違い、2人はトレーナーと選手ではなく、親と子として固い絆で結ばれていた。結果は周知のとおり。僅差の判定で勝利し、世界のベルトを手に入れた。夢は必ずしも叶わない。だが願いつづけた者のみ、夢を叶えることができる。「そんなの綺麗ごとだよ」と人は言うかもしれない。でも本当は誰もがそうでありたいと思っている。口では「どうせできっこない」と言いながら、そんなお伽噺が現実になることをどこかで期待しているのだ。越本親子はそれを成し遂げた。だから観客は熱狂し、涙を流した。諦めたらすべてが終わる。でも諦めなければ夢は続くのだと、2人は教えてくれた。

 今回の世界戦、隆志のファイトマネーはゼロだ。もちろん父の手元にもお金は入らない。代わりに、いくら大金を積もうとも手にすることのできない名誉を手にした。ライブドアを世界一の企業にすると豪語したホリエモンは、「人の心は金で買える」と言い切った。かつて時代の寵児ともてはやされた彼は、いま塀の向こうで、ボクシングで世界一になった越本親子をどう思っているだろうか。越本親子の愛情物語は、夢が叶ったからこそマスコミに大々的に取り上げられ、世に知られることになった。負けていれば数行の記事で終わっていたはすだ。でも仮に世界チャンピオンになる夢を叶えられなかったとしても、隆志はリング上でこう叫んだに違いない。

                  「みんな見てくれっ!俺の最高の親父を!」


文 スポーツライター会津泰成氏

 

 

ページトップに戻る

大庭健司ブログ
仁木一嘉ブログ







FBGメルマガ